他人の仕事

他人が仕事をして、その影響を自分が受けるわけですが、その関わり方ってのは色々とあるわけで。例えばコンビニのレジの人が働いていますが、そこに客として入るといらっしゃいませとかありがとうございましたとか言われて、スマイルゼロ円もあるかもしれませんし、商品をレジで渡すとバーコードリーダーで合計代金を計算して、いくらですって言われて商品の分のお金を払って店から出ます。

これは他人の仕事との関わりとしては BtoC で一般的に良く見るパターンです。客はレジの人に対してもコンビニに対しても直接的な金銭の支払いをしていません。客が支払っているのは商品の代金だけです。また客が受け取る商品も既に出来上がっている商品であり、レジの人が作る商品ではありません。一部の商品はレジの人が少し関わりますが基本的にはレジの人の仕事で商品のクオリティが変わることはありません。またコストもあらかじめ決めてあり商品にラベルなどが貼ってあったりして固定です。納期などもなくレジに並ぶ時間があるぐらいです。

でも製造業とかは違うわけですよ。BtoB でオーダーメイドでこういった製品を作ってくださいって言うわけですよ。そうすると当然ですが QCD の問題が出ます。納期はいつまでですか。費用はどれぐらいですか。クオリティはどれぐらいですかって話です。製造業では IT 業界も含めて常識的な概念ですけど、恐らく放送業界なども分かってるはずですよ。ドラマを作ります、スポンサーがつきます、どれぐらいお金を出してくれます、予算はどれぐらいかけられます、どういった放送枠を使います、そういったお金の話があって、いつからいつまで放送するから、いつまでに撮影を終らせてってスケジュールができて、それで脚本を書いたり撮影したりするわけでしょ。予算が決まっているわけだから、使える小道具とか機材とかも限りがある訳だ。そうなると原作を忠実に再現するのは当然ですが難しくなります。

ここで原作者と映像化する人達との関わりを考えますが、まず原作者は映像化する人達に何を求めているのかってことですよ。コンビニでおにぎりを買うのとは全くわけが違うんです。原作者はお金を払わないで、著作権者としてお金をもらう立場でしょう普通は。これはつまり原作者はお金をもらう代わりに映像化の権利を売ってるわけだ。ここでほとんど関係性が決まってるわけで。権利を売ってるわけだから、作られる中身に対して文句を言いにくい立場なんだ。原資はスポンサーが出す。スポンサーは広告効果を考えて金を払う。つまり原作そのものの価値や映像化された作品の価値や放送枠の価値から、これぐらいの視聴率が出るから、これぐらいの広告効果があって、自社の製品がこれぐらい売り上げが上がりそうだから、これぐらいの金を出せますって予測して出す金額を決めてる。そこから映像化スタッフが色々と仕事に金を使って、原作者に著作権料だか何かを払う。これだけ考えると、原作者の意向を映像化された作品に反映する論理はないんだよなあ。

そこで次に原作者が映像化を許可する条件をいくつか映像化スタッフに突き付けるわけだ。原作を捻じ曲げないで欲しいとか。こういった条件を付けるのは一見すると当然のようにも見えますが、これが実は奥深くて難しい。もともと文字しかないものを映像化するわけだから、同じものができるなんてことはあり得ないんです。漫画の場合は文字だけじゃなくて絵もあるけどさ。そもそもアニメ化じゃなくて実写化するわけですし、似た役者をそろえるのすら難しい。似てるといっても本人じゃないし。そこで原作を捻じ曲げないって言葉がどういう意味なんですかって定義の問題が出てきます。避けられない問題です。こういった避けられない問題が数多あるはずで、そうなると原作者と映像化スタッフで密に連携するホットラインなどが現実的にはどうしても必要になります。最初の契約時点での取り決めだけじゃなくて、その後もずっと映像化に関わり続けるべきなんです。原作者も映像化スタッフも。最初の契約書にカード会社の規約みたいに小さい文字でびっしりと書いてあるかもしれませんが、それだけで済ませるのは不親切で非協力的ですし、あらゆる局面に対応するのも無理があります。

それ以前に原作者が何を求めているかですよ。金が欲しいのか。有名になりたいのか。自分の作品の映像化を喜びたいのか。自分の作品に愛着があるから捻じ曲げられることが許せないのか。色々とあるはずです。そういったことを加味して初期の契約を結ぶべきで。もし自分の意向をすべて反映したいのであれば、金をもらう立場ではなくて、寧ろ金を払う立場にならなきゃならなかった。金をもらいながら自分の思い通りの映像作品を作ってもらえるなんて虫のいい話はないわけですよ。予算が決まってる中で、湯水のように金を使って撮影地や小道具を用意するなんて無理なんですから。そこをしっかりと考えていたのか。作家ならそれぐらい考える頭はあるはずですけども。その上で契約時に色々と騙されたりしなかったか。そういう話が出てきますよね。撮影スタッフは説明責任を果たしたのか。

そこから後は撮影時や脚本の執筆で互いに協力していくわけですが、人を使う、人と協力する、ここでも当然のように問題が出ます。ここを掘り下げていくと大変ですし、かなり雑に書きますが、人ってのは色々な思いを持って動いてる。だから他人が自分が満足するような結果を出すというのは難しい。自分が思い描いているものが他人に対して正確に伝えられていない場合は更に難しくなり、密にコミュニケーションする必要があります。夢を持って働いているかもしれない、成長して自分を高めたい、いつかは有名になりたい、お金持ちになりたい、あの有名人の仕事ぶりから技術を盗みたい学びたい、大切な人の為に生きてるかもしれない、家族に良い生活をさせたい安心してもらいたい、日和見主義で保身的で冒険よりも安定を求めているかもしれない、変化が嫌いで改革についていけない、友達と仲良く楽しく仕事したいかもしれない、今まで失敗らしい失敗・敗北をした経験がないかもしれない、親の介護や子供の出迎えで短時間しか働けないかもしれない、テレワーク専門かもしれない、夜型かもしれない、二次受け三次受けかもしれない、残業代は出ない契約かもしれない、残業のし過ぎで持病が悪化してるかもしれない、頭を使う仕事が楽しいかもしれない、弟子に技術を継承させたい、部下を育成したい、お手並み拝見したい、実力を見定めたい、見守りたい、自分が積極的に仕事して他者の成長の機会や居場所を奪ってはいけないと考えている、家に居場所がない帰りたくない、自分には仕事しか取り柄がない、もっと仕事・評価のプロセスを明文化して欲しい、もっと遊びたい遊びが欲しい、格好いいところを見せたいかもしれない、抑圧から解放されたい自由が欲しい、自己実現したい、今は未熟だが伸びしろがあるかもしれない、自分の才能や仕事にプライドを持っているかもしれない、後世に残る歴史的に評価される良い作品を作りたい、幼い頃の憧憬が突き動かしているかもしれない、あの作品で自分が感動したように視聴者を感動させたい、愛・勇気・希望・夢を届けたい笑顔にしたい、悲惨な実情を世の人々に知ってもらいたい、影響を与えたい、認められたい、一人前になりたい、世俗的な欲求で動いているかもしれない、出世したい、ママ友カーストを上げたい、ボーナスが欲しい、あいつを見返してやりたい、大好きなあの子を射止めたい、あんな生活に二度と戻りたくない、周囲と同じ生活レベルの衣食住がほしい、老後の備えがほしい、とにかく食うために仕事している、自分の時間がほしい、ゆとりが欲しい、やりたい仕事ではないかもしれない、ハラスメントやイジメを受けている、脅迫されている、足元を見られている、もう一線を越えて後には引けない、自分がやるしかないという諦めの境地と使命感、ヒール役を買って出ている、誰かに夢を託しサポートに徹している、引退前に一花咲かせたい、余裕がない、追い詰められているかもしれない、ここで失敗したら後がない、借金を背負っていて赤字だけは絶対に許せない、ここで結果を出せなければ親の意向に従うしかない、不満を持っているかもしれない、報酬が安いのに求められている仕事のクオリティが高過ぎ指示が細かすぎて割に合わない、プライドが高いかもしれない面子を重んじてるかもしれない、下手な仕事をしたら信用問題だし沽券に関わる、ミスを指摘しただけで激高するかもしれない、長く付き合うつもりはなく一回限りの付き合いにしてぼったくるかもしれない、他人に指図されるのが嫌いかもしれない、俺の仕事にケチをつけるな俺は俺が納得する仕事しかしない、サポートが欲しい、自分には必要な情報が全て開示されていない、仕事に意義を感じられない、大事な仕事は任せてくれない、差別的な待遇に不満を持っているかもしれない、関係者間に恨み妬みや派閥などがあるかもしれない、できる限り楽をして仕事をせず金だけもらいたいかもしれない、肩書きや縁故でポストを得ただけで実は無能かもしれない、本人は職務について無能だが優れた人脈を持っているかもしれない、優れた神輿かもしれない、寛容で多種多様な人々を纏める力があるかもしれない、ここまで自分を育てた世の中に貢献したい、今まで誰も助けてくれなかった世の中などどうでもいい、自分の能力を発揮したい、自分はこんなところでくすぶってる玉じゃないいつか大物になる、貸し借りがある、恩がある、負い目がある、約束がある、背負っているものがある、密命がある、世情に疎い、厭世的である、人種、民族、出身、国籍、宗教、思想、性別、習俗、階級、世代、職種、経歴、サド、マゾ、ロリコン、マザコン潔癖症、才能、特技、趣味嗜好、スパイ、オープンマインド、色々なものが違い常識が異なるかもしれない、そういった人達と協力して自分の思い描く作品を作ることが如何に大変か。そりゃ大変でしょう。

そこで単純なコミュニケーション能力みたいなのも関係してくる。イケメンとは良い仕事をする女子、面白い人とは仲良くなって良い仕事をする人、おべんちゃらで気持ちよく仕事する人、一緒に酒を飲んで愚痴を聞くだけで良い仕事をし始める人。そういった単純なレベルで仕事の質が左右される人達ってのはいます。俺はあまり他人に左右されない方ですけど。でも俺でもやる気をなくす時はあります。組織にはキーパーソンなんてのもいて、その人を中心に回ってたりします。そういうのを敏感に感じ取るのもコミュニケーション能力か。秘密主義で触れてほしくないって人もいるし。

もちろん組織論的な話も関係しますよ。でもそれはここでは論じたくないな。心理的安全性がある職場では部下が積極的に意見を発信しやすいとか。そういった話は主旨じゃないので。

運ってのもあるでしょうけど。めぐり合わせ。これは難しい。努力ではつかみ取れないものですよ。良い相手、良いスタッフに巡り合えるか。自分と相性が良い考え方が近い相手に恵まれるか。ここはどうしようもないんだよなあ。ドラマ業界は全く無知ですけど、アニメ業界だと有名なのは京アニとかマッドハウスとかでしたっけ。アニメ業界もほとんど無知ですが。とにかく良いところに発注しないと良い作品は作ってもらえないですよ。IT 業界も同じです。クソ会社に発注したらダメです。

だから結局のところ原作者が金が欲しいだけの人であれば、もっと幸せに生きられたんでしょうね。まあ難しいよなあ。幸せは幸せで難しいですけど。もしかしたら幸せに死んだかもしれないから。常識的に考えて幸せな死に方には見えませんけど。