引き続き件の作品について

最初から最後まで面白かったですけど、俺はたぶん序盤が好きですよ。序盤はファンタジー感がほとんどなかったんですが。でも主人公の存在が既にファンタジーだったので、最初からファンタジーであって、ファンタジー感はゼロではなかったんですけどね。中盤はもう完全にファンタジーだったんですけど、なんというか答え合わせみたいな印象がありますね。序盤の展開を成り立たせていた世界設定について、中盤から終盤でどんどんと核心に迫っていくんですよ。何度も何度も生死の境をさ迷いながら。その辺りは色々な小説にも言えることかもしれないと思いますが。本来ならばすぐに死んでもおかしくなかった弱点だらけの主人公が、それを補ってあまりある特殊な能力を持ってして、それでいて奇跡的とも言える親身に味方になってくれる人達に出会って、それでいて世の中の状況や時流に救われ、それでのし上がっていく。そういう話なんですけどね。そして序盤の住まいから引き離されていくんですが、最終的にそこに帰るんですよ。だから俺にとっては、見事な話の作りだと思えるんですね。どういうことかって、俺は読者代表でもなんでもないですが、俺は序盤の話が好きだった。その後に中盤や終盤といった世界の核心に迫っていく話が続いて、最後に序盤の居場所に帰るんですよ。それは読んでいるものにとって気持ちいいことですから。もし作者が意図的に読者に序盤の話が好きになるように仕込んでいたのであれば、見事じゃないかと思ったわけですよ。でも良くあることでもあるのかなあ。KANON, AIR, CLANNAD と俺がプレイした KEY 作品は 3 つですが、最初は女の子キャラの魅力を最大限に引き出して、その後に試練が待っていて、それを乗り越えてハッピーエンドってのが定番でしたし。その形式に則っているといえば、そうなのかもしれません。ただ本作品では恋愛ではなくて家族愛や親愛がテーマだと思われる感じなので違いはありますが。そして試練が圧倒的に長かったとも言えます。だから最後に帰ることがとても素晴らしく思えるというか。頑張ったね、というか。他にも色々と良い点はあるんですけどね。キャラが生き生きしているというか。濃いキャラでキャラ付けしているとか、そういうのじゃないんですよ。キャラの一人一人に生を感じやすいというか。ちゃんと人間らしいというか。人間が陥る過ちや行き違いや誤解など、そういったのが描かれているというか。それと主人公が目指すことがあるんですが、だけれども周囲に翻弄されるわけですよ。そしてそれもまた一筋縄ではない。色々な勢力・派閥があって、互いにけん制しあって、流れが生み出されるところが描かれている。主人公が属していた派閥の決定が後になって無意味になったりする。ストーリーに単調性を感じにくい。もしかしたらこういったことが描かれているのは当たり前のことなのかもしれないですが、俺がオススメランキングで読んだ他の上位の作品より、そういったことが良く描かれていると俺は思いました。